よなは竜太郎 ブログ

好奇心だけで人生を愉しんでいるような道産子東京在住の気が付けば30代も後半です。

行きつくは東京のそば

北海道から東京に転居するということは当然ながら飲む水が変わるということで、それに伴って食べるものも大きく変わった。

顕著なのはそばで、かつては全く興味を示さなかったのが、東京に来てからというもの、週のランチが7回あるなか、3~4回はそばということになっている。もっとも、加齢とともに嗜好が変わったということもあると思うが、やはり東京のそばは北海道のそれに比べて格段にうまい。だから店舗数だって比べ物にならないくらい東京は多い。

よくそばは江戸っ子のファストフードと謂われるが、この感覚は北海道にいるといまいちわからないだろう。

私は札幌でグルメ雑誌の記者などをやっていたので、取材と称してかなりのそば屋に出入りしたが、当地にあっての“そば屋”というジャンルは、重厚で気取ったものばかりだった。だいたい判で押したように和のしつらえの佇まいの古民家風と相場が決まっていて、店内にはJAZZが流れ、脱サラした親父がそばを自ら打って、注文してから30分くらいかけて焼き物の器で出てくる。味はきわめて平凡。それでもお勘定すると千円超えということはザラ。こんな店がスタンダードで、また人気もあった。当時の私としては、こんなものの何が有り難いのだろうと思って、すすんで食事に行くことなどなかった。

一方の東京はと言えば、かき揚げそばでも500円でおつりがくる上に、十分に旨いのだ。おつゆが辛口でキレがあり、麺も工場生産の大量品といえどもあなどれないほど旨い。なんでもかんでも手作りが有り難いと思う風習があるが、そばに関しては北海道の脱サラ親父よりも江戸で歴史を刻んだ製麺会社のプロダクトの方がレベルは上なのである。

少し話が逸れた。ともかく、東京におけるそばは早い・安い・旨いのファストフードであって、その競合ジャンルが牛丼でありハンバーガーでありラーメンとなる。反対に北海道のそばは和食のカテゴリに下層されるジャンルであり、職人技とか厳選素材とかいうコトバとの親和性が高いスロウフードと表現しても差し支えないだろう。

札幌では「粋」というキーワードを使ってそば文化を論じたがる訳知り顔のオヤジが実に多いが、これは田舎者の憧憬であり幻想である。東京ではそんな面倒なオヤジはおらず、みんなササっと啜って店を出て、それで終わりだ。